当選ツアーの宝石店
近所のスーパーのキャンペーンで、日帰りバスツアーが当たった。ところがこれ、あたりでもなんでもないのだ。格安ツアーにありがちな、お買い物センター立ち寄り付き。
宝石店?さすがに興味ないわ。90分も時間とるの⁉︎近所にカフェでもないかなと、出かける前日に検索したら、出るわ出るわ、「怪しいバスツアー」「バスツアーで宝石を買わされましたが、云々」怪しい情報ばかり。ご存知の方も多いのかもしれないが、私は、格安ツアーのこういうカラクリは、知らなかったなぁ。
分かったら分かったで、いろいろ観察してみようと、それはそれで楽しみにしていた。
観光は慌ただしく切り上げられて、宝石店到着後まず最初に通された殺風景な部屋に、なんだかよくわからないセンスの宝石がいくつか展示されている。その後、また別の殺風景な部屋で、説明会らしきものがある。ここの席は、朝、バスの乗車時点で決まっている。家族3人なんかで参加してるのはウチだけなので、はじめっから圏外扱いなのか、最後列。何か炭素どうたらこうたらで、遠赤外線がどうしたこうした、粗末な実験が始まって、当社のなんたら炭素は、ガラスや備長炭に比べて氷が溶けるのが早いのです。なんて、したり顔でまくしたてる。もうそのすべての喋りが胡散臭い。
同行していた、理系女子の娘が、物質ごとに熱伝導率が違うから、当たり前やで、と、こそこそ耳打ちしてくる。笑いをこらえながら説明を聞き終わると、商品の展示即売の部屋。全員が、炭素なんたらネックレスを試着させられる。これまた殺風景な部屋。私たち家族に着いたのは、ベテラン風の女性。子供なんかついてきてるのは、家だけだったので、係の女性は戸惑い気味。とりあえず娘にダイヤモンドだと言うネックレスを試着させる。すぐに夫が、「ちょっとトイレ。」後で聞くと、試着のネックレスは、すぐに取り上げられたらしい。残った私と娘に、あれやこれやと係の女性が畳み掛ける。
「ご主人は、普通のお勤めには見えないですが、アーティストか何かですか?」
「あぁ、まぁ、そんなもんです」
(ここで×)
「まぁ、芸術家でいらっしゃるんですね、何をしてらっしゃるんですか?」
「音楽家だったんです。もうやめてますが。」
(ここでまた×)
「あら、どんなお仕事されてたんですか?」
「バンドマンです。トランペット。」
(×)
(話題を変えて)「奥様は今日、お仕事はお休みだったんですか、えーっと今日は、火曜日、火曜日お休みのお仕事なんですか?」
「今日は休みです、仕事も休みも決まってなくて不定期なんです。」
(×)
「奥様も、アーティストなんですか?」
「はい、バンドです。」
(× )
「奥様は、何の楽器なんですか?」
「バイオリンです。」
「まぁ、オーケストラとかされてるんですか?」
「いえ、そういうのはやってません。細々とバンド演奏やってます。」
「あら素敵ですね(思ってない)写真とかないんですか、携帯に、見てみたいわ」
「いえ、ないです。小さいライブハウスとかで、細々弾いてるだけですから。」
(×)
「それでずっと、食べてこられたんですか、すごいですね。」
「食べられなくても、いや、まぁ、いろいろね…」
(×)
「ご主人は、今は何か他のお仕事されてるんですか?」
「いやぁーもう歳ですから、年金暮らしです。」
(× × ×)
「ここで、夫がトイレから帰還。」
「あれ、娘、そんなの欲しいの?」
「いや、別に…」
係の女性の頭の中のエンマ帳には、いくつ×がついただろうか。あといくばくか、おざなりな説明をして、「〇〇円が、今日までちょうどセールで、〇〇円になります。」
「いや、うちはちょっとね、さすがに…」
これで、さっぱり打ち切り。歩き出そうとする私たちに、
「あ、お出口はあちらでございます。」
バンドは、最強のワードだった。これにて、無事、終了。
いろんな商売があるのだな。娘も、良い社会勉強になったんではないか。観光自体はそこそこ楽しかったし、お昼ご飯も、豪華なものこそ出なかったが、思ってたよりもずっと子マシな食事だった。まぁ、家族でワーワー言いながら楽しく時間を過ごせて、よかった。高いと感じるか安いと感じるか、人それぞれだと思う。
ただ、前日見た他の人のブログにもあったように、この日も、何人かは購入したようなのだ。サクラもいたのかもしれない。ここで、あの説明とあの状況で、高額なものを購入する気持ちはわからんなぁ。裕福な人たちなのかな。少なくとも、バンドではないわな。
などと考えながら、結構早い時間に帰宅。そして、ヴァイオリンの弦を注文した。最近、弦の値段が爆上がりで、前回は、少しお安い目のナイロン製のモノを試したのだが、私にはしっくりこなかった。今回は、爆上がりしているガット弦をポチッ。
前回の弦の倍ぐらいして、切れやすい。そして、多分、聴いてる人は誰も気がつかない。大した腕前でもない自分、弦に金かける前に、もっとすることあるやろ、そもそも、いい音がする気になってるだけで、それって気のせいなんちゃうん?ほんまに必要?
でもね、若い頃から、何度か、他の材質を試しては、やっぱりガットやなと戻す、をずっと繰り返してきて、今使っているガットは、ガットのウィークポイントがかなりカバーされた、今まで一番気に入ってる弦。だから、いいのだ。自分が、それだけの価値を見出して投資するのであれば、正解だ。
あれ?宝石を買った人と、自分、おんなじちゃうん?高い買い物でも、「ええもん身につけてる」、と、満足して幸せならば、それはその人にとって、対価に見合ってるのか?売り方には問題あっても、魔法にかかった方は、幸せな気持ちが続くのなら、それでいいのかもしれないなあ。いつか魔法が解けた時、「あの時騙されたかも」と思っても、幸せな時間と見合ってると思えば諦めもつく。
私もいつか、ガット弦の魔法が解けるのだろうか?いや、ずっと魔法にかかったままで、ええわ。
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